渡部光一郎 (わたなべ こういちろう)

 


<自選歌集>

 ホルマリン漬けの高麗人参は侏儒のかたちで待合いに居る

 おとうとの身じろぎを背に感じつつ夜をどこまでも瞠いている

 退院の父の瞼は腫れておりレコード針はまたしても飛ぶ

 祖父もまた祖母も越えて来し 黒森峠 犬寄峠

 青森駅 俺に似合わぬ駅なれば三度くさめをして立ち上がる

 義眼めく目をもちながらすさまじく護国神社に群れて行く鳩

 蜂蜜を湯に溶く夜に来しもののなにゆえか劣情と呼ばるる

 かそけくも春の窓辺に糸をひくこの蜘蛛の子にも親はありしが

 セロハンの水中花壜詰めにして永遠にまぶしき恋のなきがら

 ちちははら四半世紀そい遂げて煉瓦の間を満たす漆喰


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